2月9日のスピーチ

情勢報告(2.9)

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  • 1/19日に始まった停戦合意で順調にイスラエルによって拘束された人々とハマス等に捕らえられた人質が解放されています。ハマス側が女性や高齢者や負傷者などの33人の人質を解放することになっており、昨日8日に5度目の双方の解放がありこれでハマス側は33人中タイ人5人を含む21人を解放しました。イスラエル側も拘束されたパレスチナ人183人の解放を始めています。この停戦合意は三段階で進められる予定で、第一段階の内容は6週間の停戦期間に、イスラエル軍はガザの人工密集地から撤退すること、ガザでの軍事行動を停止すること、という内容です。第二段階は残りの人質の解放と、全てのイスラエル軍の撤退とされていますが、この第二段階への進め方は第一段階中に協議することとなっています。第三段階は、亡くなった人質の遺体の引き渡しとガザの再建が予定されています。なお第一段階42日間の終了日は3/1となっています。
  • 1/31UNRWAはイスラエルから禁止令が発布されたことにより、UNRWA外国人スタッフのビザは1/29に切れたまま発給されず、外国人スタッフは余儀なく東エルサレムにある事務所とともに、隣国のヨルダンへ移転しました。一方で現地に留まるパレスチナ人スタッフを標的に、イスラエル人による抗議デモやラファ検問所での立てこもりなどの妨害、投石などが起こり、UNRWAラザリーニ事務総長は、必ずしも以前と同じではないがUNRWAの支援活動が継続できているものの、UNRWAがテロ組織だというとレッテルを貼られるための偽情報の標的とされ、きびしい状況と困難に直面していると述べています。UNRWA活動禁止法が施行された1/31同日には、イギリス、フランス、ドイツの外務大臣は声明を出し、多くの人道支援組織や物資やスタッフなどはイスラエル経由が必須のため、ガザ地区へのこのイスラエルの新法による影響は大きい、と指摘して、あらためてUNRWA活動禁止法への懸念を表明しました。さらに1/31同日、南アフリカやマレーシア、キューバやボリビアなどの9カ国が「ガザでのイスラエルによる大量虐殺、失われた命、生計、コミュニティ、文化遺産を嘆き、」「イスラエルのパレスチナ国家占領を終わらせ、パレスチナ人の独立国家に対する権利を含む、パレスチナ人民の不可侵の自決権の実現を支援する」ために、ハーググループを結成しました。このグループは国際法をパレスチナおよにイスラエルにしっかりと適用することを求め、国際刑事裁判所によるネタニヤフとガラントへの逮捕状発布を支持し、また国際司法裁判所のジェノサイド防止の暫定措置命令の履行、イスラエルへの武器提供の拒否、イスラエルへの軍事燃料と軍事武器搭載船舶の接岸拒否、を宣言しています。ハーググループの結成は国際法が平然と踏みにじられ、ジェノイサイドが黙認されている国際社会においてとても意義のある動きであると思います。日本政府にもこの動きに参加することを強く求めます。

  • WHO世界保健機構によると、ガザの負傷者や病人など、他国での治療が必要なパレスチナ人が推定1万2千~1万8千人いて、その一部、その子どもの多くがエジプトの医療支援を受けるために、2/1に8か月ぶりにラファの検問所が解放された。イスラエルは子どもに付き添う大人を一人しか認めておらず「ガザから一度出たら再びガザに戻ってこられるのか」とガザに残す子どもとの別離などで、家族は不安を募らせている。日本も2/3に石破首相が、パレスチナ患者の受け入れに前向きな姿勢を示したが、トランプによるエジプトやヨルダンなどの周辺国にガザ住民の受け入れを要請したニュースとあいまって、日本国内のネットでは「日本に移民が流れ込む、日本がパレスチナ移民の強制移住に加担」などの、パレスチナ人や移民に対するヘイトが散見されています。
  • イスラエルはガザ停戦合意の1/19直後から、西岸地区ジェニンで丸腰の14歳のパレスチナ少年を射殺し、翌日にかけて、集落を襲撃、住宅や車両の放火、道路の封鎖、投石を行い、1/21には、正式にヨルダン川西岸地区ジェニン一帯のテロ撲滅大規模作戦「アイアンウォール鉄の壁」を開始したと発表しました。2月2日のネタニヤフはアメリカへ飛び立った日、イスラエル軍は声明を出し、2週間以上にわたるアイアンウォール鉄の壁作戦で、50人以上の武装勢力を殺害し、100人以上を拘束し、23棟の建物を破壊し、今後数週間作戦は続くとしています。一方ジェニン市長はこの発表の翌日3日CNNの取材に、ガザ停戦直後からの2週間で120軒の建物が破壊され15,000人の人々が余儀なく避難をし、水や食糧品、医療品不足が深刻化、今後、避難民は増加する一方であること、規模は小さいがガザで起きていることと同様だと語っています。ガザ停戦に強く反対したイスラエルの、極右政党党首のスモトリッチ財務相は、ヨルダン川西岸地区での安全保障が戦争の目標に加わったと主張、またカッツ国防相はヨルダン川西岸地区の軍事作戦が完了した後も、イスラエル軍がジェニン難民キャンプにとどまり続けると表明。これらイスラエルの大きな政策の変更ともとれる発言に、ジェニン市長は懸念を表明し、パレスチナ自治政府のアッバス議長は国連安保理の緊急会合開催を要請し、ハマスはイスラエルに対する抵抗の激化を呼びかけました。
  • トランプとネタニヤフが2/4に共同記者会見をし、ガザをアメリカが引きとり高級リゾート地にするなどトランプの妄言が飛び出し世界に波紋を拡げている。サウジアラビア、ロシア、中国、ドイツ、フランスなど、アラブ諸国を含む広範囲の国際社会に反発が拡がっている。また2/7トランプ政権はイスラエルに総額74億ドル、約1兆1千億円の兵器、ミサイルや爆弾など数千発が含まれる、の売却を承認し、議会に通知しました。
  • 1/28アメリカ議会上院にて、ネタニヤフに逮捕状を発行した国際刑事裁判所ICCの関係者を制裁する法案が否決されたが、2/7トランプはこの上院での法案否決をくつがえし、アメリカ人やイスラエルの同盟国に対する捜査に関わった国際刑事裁判所の職員らに制裁を科す大統領令に署名。具体的な制裁対象者がいつ公表されるかは不明です。トランプは第一次政権時代も、アフガニスタンでの戦争犯罪捜査にたずさわった当時のICC主任検察官に制裁を科しています。国際刑事裁判所ICCには125カ国が加盟していますが、アメリカイスラエル中国ロシアは加盟していません。
  • 最後に、イスラエルによるレバノン侵攻についてですが、去年の11月の停戦直後から直近にいたるまでイスラエルによるレバノン南部への空爆は一貫して行われています。去年の11月27日の停戦合意がなされ、その翌日にはイスラエルがレバノン南部ロケット弾保管施設を空爆し、レバノン側は「イスラエルは合意を破った」と批判しましたが、それから2か月以内にイスラエル軍はレバノン南部から撤退する、という停戦合意の延長を、イスラエルは30日間アメリカに求めました。ヒズボラはこの延長によるイスラエル軍の駐留は「新たな占領の始まりだ」と非難し、結局1週間短い23日間の延長で2月18日までの延長が発表されましたが、ヒズボラの最高指導者ナイム、カセル師は、延長が発表された1月26日の翌日に「一日たりとも延長は認められない」と述べた。また停戦合意が発表された1月26日以降にイスラエルによる空爆攻撃などが連日続き、多数の死者負傷者が出ており、ヒズボラ最高指導者ナイム、カセル師は2月3日に「(イスラエルの攻撃は)単なる(停戦合意)違反ではなく、侵略としか言いようがない」と非難「(この)違法行為に立ち向かうために適切な時期に行動する」と報復を示唆しました。

2月9日「イスラエルは停戦合意を守れ!ガザに人道支援を!集会&デモ」

メッセージ

PDFはこちら⇒2.9パレスチナ子どものキャンペーン 北林 岳彦原稿

 「イスラエルは停戦合意を守れ!ガザに人道支援を!集会&デモ」にお集まりの皆さん、パレスチナの人びとへ心を寄せて下さり、変わらない力強いご支援に感謝します。

 ガザの人びと、ヨルダン川西岸、エルサレム、イスラエル国内、そして北隣のレバノンに難民としてに住むパレスチナの人びとに代って、お礼を申し上げます。

 ガラスのようにもろい、と言われている「停戦」です。それでも戦闘機や爆発の音に脅かされる日々が止まったこと、廃墟になっているかも知れないけれど、自宅のある街へ戻れることになったことは、ガザの人びとにとって、一息をつける機会となったことは、確かです。

 ガザ地区北部への移動が許可されると、すぐに幹線道路は人の波で埋め尽くされました。避難してきた道をまた徒歩で戻る人の中には、疲れと空腹で座り込む高齢者や障がいを持つ人の姿もあります。

 たとえ自宅がなくても、もうこの地を離れない、ここで生活を立て直すのだ、という決意を語る姿が、中東のメディアでは流れています。パレスチナ人は不屈だ、と彼ら・彼女らは訴えます。

 しかし、東日本震災の1,400万トンとも2,000万トンともいわれる量をはるかに超える5,000万トンに達するというがれきを前にして、途方に暮れている人も多いのです。ガザ地区の面積365平方キロは、岩手・宮城・福島の3県の面積のほぼ100分の1です。

 ここでちょっと触れておきますが、偶然にも名古屋市の面積約326平方キロメートルは、ガザ地区のそれ約365平方キロメートルとほぼ同じ、名古屋市の人口約233万人は、ほぼガザ地区のそれと同じなのです。ただガザ地区には農地がかなりあり、密集した難民キャンプが点在することで、世界一人口密度が高い地域のひとつと言われてきたのです。

 がれきの下には、まだ行方のわからない人たちが埋もれています。がれきをどかそうとしても、不発弾があちこちに隠れています。昨年10月から11月にかけて、名古屋市東区や中区丸の内で不発弾が見つかり、一時避難や交通規制が起きましたが、何百倍もの規模でそうした事態が起きているのです。過去の戦争をみても、これだけの市民生活空間の破壊は「ヒロシマとナガサキ」だけだ、と言う人もいます。

 そして、実際に、広島型原爆の5,6発、あるいはそれ以上の威力をもつ兵器が投じられたと指摘されています。名古屋市に原爆が6発も落とされたら、どうなるでしょうか。

 230万人以上と言われているガザの人口に対して、医療施設はほとんど破壊されてしまっています。機能している総合病院はほぼ、ありません。2023年10月以来、小学校から大学までが機能停止となり、小中学校での学びの機会は奪われたままです。大学のすべてのキャンパスががれきになってしまっています。もちろん上下水道や電気といったインフラもほとんどがなくなってしまいました。この被害の中で、障がいを持つ人たちや高齢者は、最も厳しい状況に置かれています。

 しかし、ガザの人びとはうなだれて、ただ状況を受け容れているわけではありません。

 病院がなくなっても、残っていた機材を集めて、緊急医療が続けられています。学校が窮屈な避難所になってしまっても、教員たちはテント村で寺子屋を始めています。私たちの現地スタッフも燃料の配給を確保し、給水車を避難キャンプへ走らせ、送金した財源でただお腹を満たすだけでなく「おいしい」と思える食事を提供しています。ガザの人びとは自分たちは「挫けない」「ここを動いたりはしない」と胸を張ります。

 つい「緊急人道支援」は、戦争被害に遭ったみじめでかわいそうな人たちへの施しのようなイメージがつきまとい、寄付を募る方もそうしたニュアンスに訴えがちです。しかし、ガザのパレスチナ人は、施しを求めてはいない、人間としての尊厳、あたりまえの人間としての平等を求めています。「なぜ、世界は我々をこんな理不尽で差別的な状況に甘んじさせるんだ?」「なぜ、世界は、私たちの人間性を尊重してくれないんだ?」というのが、彼らの本音です。

 障がいを持つ人びとや高齢者、妊産婦など、脆弱性を社会的にもつ人びとのために、現地のNGOも奮闘しています。障がいを持つ子どもと健常者の子どもがともに学ぶインクルーシヴ教育も避難先で行われています。病院が機能停止に追い込まれても、各地で妊娠している女性や新生児のケアを行うクリニックが起ち上がっています。

 日々の生活を成り立たせていた安全な水へのアクセス、電力や燃料、そして最低限の食料確保も、戦争事態だけでなく、検問所の恣意性、官僚主義によっても阻まれてきました。そんな時に、ガザ市民を代表してNGOのコーディネーターや人権活動家は声明を出し続けてきました。私たちは最大限それに応答しようとしてきました。また私たちの呼び掛けに、多くの日本に暮らす市民が手を差し伸べてくださいました。現地スタッフもビニールテントで暮らしながら、懸命に働いてくれています。

 停戦がいつまで持つのか、第二段階へ進めるのか、トランプ大統領の「ガザ住民を立ち退かせて、アメリカがガザを管理する」という発言に耳目が集中する中、がれきとなった自宅にテントを張るしかない人びとは、自分たちがふたたび「忘れ去られてしまう」ことを危惧しています。人間は、忘れっぽく、メディアもSNSもその時点での流行りや優先順位を追ってしまいます。しかし、今回のガザの破壊はパレスチナ史上、第二次大戦後の世界史史上でも、あまりにも莫大なものです。再建・復興といっても、この先の見通しが立たないほどです。

 そして、これはパレスチナを分割するとした国際連合決議の大きな失敗の結果であり、80年近く解決を先延ばしにしてきた問題を、最も悲惨なかたちで世界に突き付けた事態です。国連パレスチナ難民救済事業機関=UNRWAは単に難民に人道支援する組織ではなく、パレスチナ問題が解決を要する課題であり、その解決=難民の帰還まで暫定的に面倒を看ます、という世界の約束ごとなのです。NGOが束になっても、他の国連機関にも、UNRWAの肩代わりを務めることはできません。

 私たちの課題は、たくさんあります。できることは、少なくありません。

 私たちNGOは、彼らの努力を支え、活動を通じて、子どもたちや社会的に最もしわよせを受ける人びとに「世界は見捨てていないよ」というメッセージを届けます。また政治に働きかけ、パレスチナ人の尊厳を守らせ、自決権を支持させ、国際的な約束であるUNRWAの存在を消させないことが根本的に必要です。

 その他、さまざまな運動が始まっています。

 情勢は、もうひとつのパレスチナ=被占領地域である「ヨルダン川西岸地区」でも極度に悪化しつつあります。当地でも教育支援活動を行っている立場として、重大な関心を寄せつつ、現場と連絡しながら、できることを模索、追及していきます。

 ぜひ今後とも、パレスチナとそこに生きる人びとに心を寄せていただき、ご支援をお願いします。ともに展望を共有して参りましょう。

 ありがとうございました。


               特定非営利活動法人 パレスチナ子どものキャンペーン

               北林 岳彦 (2025年2月9日)

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